この展覧会では、建築や美術を学ぶ大学生から運営スタッフを多く募り、開催期間中、来館者の皆様への説明とご案内を差し上げました。
しかしながら平沼孝啓は、美術館(展覧会場)における学芸員のような役割は、大学生にとって不慣れな為、ある種 「退屈」なものじゃないかと想像し、また退屈なスタッフの様子を来館者の皆様にお見せするのではなく、運営スタッフである大学生が本来の学業(課題)をしている様子や、何かに夢中で取り組んでいる風景を、この会場の空気感と同時に来館者に感じてもらうことを期待されました。
そのきっかけとなるよう、当日遠方にいた平沼は、学生中心の運営スタッフ宛てに、課題をメールで送信。開催時間直前に展覧会場内で課題(授業)を申し伝え、運営スタッフに取り組んでもらえるようなメッセージを受け取りました。
来館してくださった方々には、大変、不謹慎なことで申し訳ありません。しかし私たち運営スタッフにとっては、このことによって、とても楽しく、充実した日々の中で、展覧会を運営することができました。
以下に
「平沼先生の授業」 (メール送信文)を掲載します。
【みんなへの課題】
みんな集まってくれてありがとうございます。
運営スタッフとして手伝ってくれる、みんなへのお礼文を書こうと思ったんだけど、まだ会ってもいない人も参加してくれている中で、手紙を書いても仕方ないですね。僕が今できることは、課題を出すことくらいです。課題と言っても難しいものでは決してありません。楽しく、そしてみんなの刺激になるようなものをイメージしています。でも、それだけでも、なんだか余りにもみんなに失礼な気がして、その場所でしかできない課題を考えてみました。
この課題(授業)の目的は、建築に興味を持ち、展覧会の運営を手伝ってくれるみんなの気持ちが、会場で少しでも元気になるような、何かの目標に向うような、、、これからたくさん生きていく上で、大切な情熱の欠片やきっかけになってほしいと願っています。だからこの課題は強制ではなく、日ごとの「5つの課題」。もし、やってみたいと思う人がいてくれるのなら、提出してくれれば、平沼がみて、考え、気持ちもきっと察してお返事します。
このような課題を通して僕にも人との関わり方、そして興味を持っている良いことの為に、楽しい実行の方法をもっと教えてください。
課題項目は下記の「5つの課題」
1. 出展作のなかで実際に建つ建築空間として最も興味をもったものを挙げてください。また、どの部分に興味をもったか、それを見て自分はどう感じたのかを述べてください。(リアルなものとして。つまり、実際に建つ建築空間と仮定してです。)
2. 上記の逆、つまり、展覧会としての「模型」レベルや「表現」レベルとして、最も興味をもったものを挙げてください。また、どの部分に興味をもったのか、それを見て自分はどう感じたのかを述べてください。(つまり建築としてではなく、アン・リアルなものとして。つまり、実際に建たない建築空間としてです。)
3. (1. 2.) この二つの項目を通して、「非現実から現実へ」というサブテーマの回答を考えてください。(1. 2. に含めてもらっても結構です。)
4. 来場者の様子をどうか観察してください。会場には、建築に興味がある人、興味のない人、ある程度建築の知識のある人、知識を持たない人。大人や子供など、さまざまな人が訪れてくれるはずです。建築を専門として日々携わっていると、自分の認識が一般的だと想いこんでしまい、差異が見えにくくなっている点もあります。どうか、来場してくれる人たちを観察し、提案のどういったところに興味をもつのか、どのような表現がわかりやすく伝わっているのか記録してください。できれば多くの人、もしくは集中して1人の人を"徹底的"に観察してください。ただし、あくまでも来場者の閲覧の妨げにならないよう、不快に思われないような配慮はしてくださいね。
自分の持つ「第三者の目」を養うのと同時に出展作品を改めて観察することを学べるはずです。
5. この展覧会の主題 [unknown architecture] について、各自の課題としての回答をその日の即日設計としてスケッチ表現してください。
以上です。
もし、スタッフとして1日だけじゃない人でも、毎日、提出してくれるとうれしいな。日々刻々と変わる自分の気持ちや、見え方の違いに、気づいてもらいたいのです。
では、開催日。10分前!楽しんで開始してもらってください!
以上が、開催日当日の開催時間直前に突然やってきたメールでした。
これから以下に挙げるものは、当日会場スタッフとして参加した学生たちのレポートです。スタッフは会期中に課題を持ち帰るのではなく、会場の中で何を感じたのか、自分ならどうするか、平沼先生に聞いてみたいなどをレポートとすることになりました。
このレポートは、ひとりひとりの感じたことをありのままに綴っておりますので、文中において間違いや意味の通じにくい箇所もあるかと思います。
どうか、何卒ご容赦いただき、ご笑話いただきながらご高覧くださいましたら幸いです。
2009年 9月
平沼孝啓建築展実行委員会 委員長 古川きくみ